製造業のデジタル図面用語

面落ち・ねじれ

加工現場も知らないと、さすがに困る時代に

実は私、本業の金型を作るかたわら、業界の発展に向けていくつか活動しています。
その一つが『ものづくり標準データ推進協議会』というものです。

その活動についてはまた別で述べますが、その延長で多くの町工場でヒアリング調査をしました。
しかし残念ながら、最近のデジタルDX化した図面用語が実は理解されにくい現状も把握できました。

そこで、これだけは知っておいて欲しい用語を説明します。
できるだけパソコンを詳しくない、町工場の加工現場の初心者でもわかるように心がけました。

ちなみに、2023年10月時点でのものです。
デジタルの世界は日進月歩で進化が早いです。統廃合も色々と進んでいます。
すぐ古くなりますので、最新情報などは専門の方に別途確認お願いいたします。

dxf?pdf?iges?パラソリッド?ステップ?

ここが最も広く聞く、最重要な用語になろうかと思います。

.pdf 
イメージとしてはFAXや写真のようにしてパソコンで送信できるファイル形式。
なので、これは最初に上げましたがCAD用のファイルではありません!
あくまでも画像なもの。
厳密には違いますが
.png
.jpg
などと同じイメージです。
よって、寸法表記の文字化けは無いのが強みです。
これを印刷して、印鑑を押す承認図・正式図にするのが多い使われ方です。


.dxf
2次元の平面図の形式です。
最も流通している共通形式だと思います。

.igs .iges
アイジェス。3次元のモデルを定義できます。
ひと昔前はこれが企業間のやり取りで最も利用されました。
比較的古いシステムを使い続けている企業さんが今なお愛用しています。

.stp .step
ステップ。これも3次元です。
国際規格ISOで定義されていることもあり、最近は主流になりつつあります。

.x_t .x_b
パラソリッド。これも3次元です。
これはSolidWorksの形式なのですが、ユーザーが多いので流通しています。
tとbは保存方法の形式違いなので、ひとまず気にしなくても大丈夫です。

拡張子
知ってて当然ではないので、ここも改めて。
.〇〇〇
と表記してるのは、拡張子と呼びます。
画像なら.jpg
動画なら.mov
などですね。
最近はパソコンでも拡張子を表記せず、アイコンの見ためだけで使い分けるのも増えたので
(スマホしか触ってこなかった人には特にわかりにくい)
あえてここも説明しました。

なぜ形式が色々あるのか

その昔、設計図は製図版の上に紙を置いてペンで書くものでした。
そこにパソコンを使用してCADが誕生。
何だこの小さいモニターは!
実寸大で描けないじゃないか!
A0やA1の巨大サイズで描かないと、こんな小さいサイズで何がわかるか!
という、今の若い方には想像できない猛反発の時代もありました(笑)

製図版が並ぶ様子。ジブリの風立ちぬの公式フリー素材から

しかしデジタルが当たり前の時代に。
様々なソフトウェアのメーカーが誕生し、それぞれが独自規格を作りました。
そこから世界中で弱肉強食の結果、統廃合なども経て今となっています。

統一しようという話もありますが、次々と新機能も出てくるために統一規格が進まない要因となっています。
これは各大手メーカーさんも頭を悩ませているのが現状です。

こぼれ話で、T定規・角度定規がついたので一般的に呼ばれるのがドラフター。
このドラフターは製図版メーカーの武藤工業さんの登録商標だそうです。

さて、ここから少しずつ世界を広げていきます。

CADソフトの種類

CADとはComputer Aided Design
つまりコンピューターで図面を書き、設計するものです。
CADも様々にありますが、大きくわけて設計の他にも何ができるかで、価格が大きく変わります。

3DハイエンドCAD(様々な機能があり高価)

  設計だけでなく、CAE(Computer Aided Engineering )つまり解析の機能などがあります。
  構造の強度、熱の伝導性など、様々に調べられるので、車や飛行機などの設計に使用されます。
  
CATIA(キャティア) フランス:ダッソー・システムズ
https://www.3ds.com/ja/

拡張子
.CATPartなど

Creo Parametric(クレオ・パラメトリック)  アメリカPTC
https://www.ptc.com/
旧製品名はPro/ENGINEER

拡張子
.prtなど

NX  ドイツ:シーメンス
https://www.plm.automation.siemens.com/global/ja/
以前あったUnigraphicsとI-Deasはここに吸収統合

拡張子
.prtなど

今はこの上記3つがよく使われているでしょうか。
クレオとNXは拡張子が同じですが、仕組みは別々なので互換性はないそうです。

また、町工場側からすると雲の上の話になります。
車メーカーなどと直接取引する1次サプライヤーのTier1(ティア1)とかでもなければ、そんな世界があるのね~くらいで、深く知らなくても大丈夫です。
かくいう弊社でも上記データは、実は受け取ったことがありません。

3DミドルレンジCAD(中堅工場で最もよく使用されている)

一般的な設計のみ、加工現場などの工場はこのクラスになります。
そして様々に種類も豊富です。
ハイ・ミドルがあれば安いローエンド、はどうなの?ともなりますが、その差に明確な基準はありません。
また、製造業としての大事な要素、
工作機械を動かすためのNCデータを作るCAM(Computer Aided Manufacturing)機能のある・無しでも違います。
以下に主だったものを列挙します。

SolidWorksソリッドワークス  フランス:ダッソー・システムズ
https://www.solidworks.com/ja
拡張子は
.x_t
.x_b
パラソリッド形式として先ほど出てきたものです。
このソリッドワークスは広く普及しているため、比較的よく企業間のやり取りに使用されます。


iCAD 日本:iCAD株式会社(富士通)
https://www.icad.jp/
拡張子は
.icd

XVL 日本:ラティス・テクノロジー(トヨタ)
https://www.lattice.co.jp/
拡張子は
.xvl

インベンター アメリカ:AutoCAD
https://www.autodesk.co.jp/

Space-E 日本:NTTエンジニアリングシステムズ(日立造船)
https://www.nttd-es.co.jp/solution/manufacture-sol/cadcam/space-e/
拡張子は
.mdp
.sat
弊社はこちらを使用しています。

GeomagicDesignX アメリカ:3D Systems
https://ja.3dsystems.com/

Rhinoceros 3D アメリカ:Robert McNeel & Associates
https://www.rhino3d.com/

Fusion360 アメリカ:Autodeskオートデスク
https://www.autodesk.co.jp/

2D平面のCADと.dxf

AutoCADオートキャド アメリカ:Autodeskオートデスク
https://www.autodesk.co.jp/
拡張子は
.dwg

世界で一番シェアが大きいと言われるのがこのオートキャドです。
それが要因で、流通しているファイル形式があります。それが
.dxfです。

実はこのdxf形式、これこそアメリカのオートデスク社が開発したものです。
そしてその仕様はオープンソースとして公開されました。
なので世界で広く利用され、解説本も多く出ています。

DXFもDWGもオートデスクで商標登録されています。

そしてひとまず
2DのCADはたくさんあるので、他は割愛します。

製造業で使用するその他のデジタル用語

いまいち明確に差がわからず、ごちゃごちゃになりがちなのを深掘りしていきます。
が、段々と難しい話になるので、さらっと現場向けでいきます。
詳細は専門のサイトで調べてください(^^;;

生データ
設計者が使用していたデータ形式を指します。
dxfで設計したならdxfが生データです。
ただ実際には、CATIAやパラソリッドで設計するのが多く
「CATIAの生データからigesに変換したよ」
などという使われ方になります。

サーフェイスとソリッド
3Dデータも定義方法は様々です。
例えば、立方体。
折り紙で表面だけで作り、中身がスカスカだと、サーフェイス。
粘土で中身もぎちぎちに詰まっていたら、ソリッド形式です。

ワイヤーフレーム
サーフェイスで、稜線だけで定義するものです。
針金だけで作るようなものです。

STL
ポリゴンのことです。
小さな三角形を集めて表現します。
最近では.objオブジェクトファイルも仲間です。
よって、先に挙げたigesやstepとは定義の仕方が全く異なり、全く互換性はありません。
無理矢理変換したにしても精度は各段に変わります。
よくすでにある粘土モデルをスキャンして~というのも、実際には精度が悪くて工業製品には使用しにくいのが現状です。
最近はそれを補正するソフトも出てきてますが、高価なのでやれるところは限られると思います。

テクスチャー
ワイヤーフレーム・ポリゴン三角形だと味気ないので、そこにカラフルな画像を貼り付けます。
そうすると、よく見るVRやゲームの世界になります。
なので、サーフェイスとテクスチャーでは意味が違うわけです。
サーフェイスはCADとして数値で定義されますが、テクスチャーは絵のイメージです。

コンバーター
変換ソフトのことです。
各メーカーごとに異なるのを解析して、最適になるよう補正してくれます。
ただ、あくまでも補正が入るのが基本です。
よくある例えで
『とりあえず生』
この言葉の数と同じレベルで英語に訳そうとしても言葉がありません。
なのでどうしてもCADデータも変換すると化けてしまうのです。

アイソメ図
3Dのモデルを斜めから見たものです。
平面・正面・背面・側面の6方向とは違う方向になります。

CG・コンピューターグラフィックス
これは、パソコンで描写したもの全てを指します。
CADの2Dや3Dも、ゲームも、最近のアニメも、バーチャルなVRも全て広い意味でCGです。

深掘りすると専門用語は沼化する

フィーチャ
パラメトリック
ファセット
バイナリー
・・・・おっと。

まさに終わりが無いので、ここくらいまでがひとまず入口でしょうか。
ただ今回、私が最も言いたいことは、この専門用語の説明ではありません。

dxfはオートデスク社のもの

先に説明しましたが、dxfはアメリカのオートデスク社が開発した規格。
オートデスク社が規格を管理しています。

igesはANSI米国国家規格協会のもので古い

スタートはGM、ボーイングですがANSIが1996年に最終バージョンにしてから変更されていません。
つまり、もう今の最新3Dに対応するのは無理があるのです。

パラソリッドはシーメンスのもの

ソリッドワークスの流通の多さで、中間ファイルとも言われます。
しかし実際にはシーメンスが規格を管理しています。

STEPこそ真の標準形式

やっと本題なりました。
STEPは、ISO国際標準化機構で認定された形式です。
ISO 10303
これはSTEP形式のAP242と呼ばれます。

一番最初に述べた
ものづくり標準データ推進協議会

私はその技術委員として所属し、文字化け・3Dモデルの変換化けなど、デジタルデータに関する煩わしさの撲滅のため活動しています。
いわゆるヒーリングと呼ばれる3Dモデルの修正がムダな時間にしか思えないのです。
そこで先日、町工場の現状としてプレゼンしたのが、次のブログ

町工場での図面データの酷い現状になります。