町工場での図面データの酷い現状

読みにくいFAX

FAXの文字が読めません!

それとも
「え?まだFAX使ってるの?」
でしょうか?

JEITA一般社団法人電子情報技術産業協会
その中にある
ものづくり標準データ推進協議会

私はこちらの技術委員として、ここ数年活動しています。
この委員会ではJAMA自動車工業会やCADシステムを開発するベンダーさんなどが所属し、CADのデジタルデータをどうしたら製造業の中で利活用できるか?を話しあっています。

(※ちなみに無償、というよりわざわざ年会費を支払ってます。町工場レベルの企業にはほぼ参加メリット無い話です)

別で私が型技術協会などに所属していた縁もあり、この標準データ推進協議会に入会しました。
しかし私が加入する前は、どうしてもいわゆる製造業のピラミッド構造で上層特有の認識した話が多いようでした。それを感じたが故、これは製造業全般にとってバランスが欠けているのではないか?と、逆に下層の町工場側からの意見を機会のある折に進言しておりました。
そして、今回は正式にまとめて委員会全体にプレゼンする機会もいただき発表しました。
なのでこれを今回再編集して、このブログを見て下さっている製造業の方々向けに、どーんと行ってみたいと思います。

が、書いてみたらとても長文になったので、この下の画像に興味ある方だけ読み進めてください。
長いです、すいません…


Twitterで図面について質問してみた


さて。


前段の経緯として、まずTwitterで大々的に聞いてみました。
そしたら予想を超える大反響!
コメントは、引用も全部足せば100を超え。
お陰様で、製造業の現場での阿鼻叫喚!がわかりました。


そしてこの他にも自分の知ってる町工場も数十社、直接ヒアリングしました。
途中から、この問題は大手メーカーさんにも同じ悩みがあるのもわかり、同様にヒアリングをしました。



多くの企業にご協力頂きました。
誠にありがとうございました。


では、それをパワポ形式で解説していってみます。

中小町工場での図面データに関する現状報告


こんな感じでプレゼン開始しました。
参加者は60人ほどいたようです。




いわゆるホワイトカラー的な、ずっとPCでデスクワークされてる方にはイメージしにくかったと思います。
私は現場もPCも、常に行ったり来たりなのでこれが日常です。
PCに張り付いているわけではないので、メールの返信が遅くなる時が多々あります。
大変申し訳ございません。

上記は私個人的なものですが、続いてはヒアリングした他多くの町工場のご意見です。




メールでなくFAXが今なお現役で愛用される理由、なんとなくでもご理解いただけたでしょうか。
そしてですね、町工場側だって負けてないんですよ。
当然、デジタル化が推し進められています。



はい、ここが大企業か零細町工場か、で別れる大きな点だと思います。

大企業側からすると、セキュリティーの問題もへったくれもありません。
ありえん!の一刀両断だと思います。

その一方で、町工場側からすると、日常使い慣れてます。
超スムーズに利用できるわけですね。

FAXか、LINEか、SNSか、メールか、ビジネスチャットか。
どれも一長一短です。

どれもが正解だと思います。

FAXに関してはここまでで、次はCADのデータ変換についてです。

生データと中間データ変換



この上にある画像が、よくある変換した後に起こる例だと思います。

緑色はひっくり返った面
灰色はトリムが解除されて伸びた面
中央あたりは中が透けて見える、面の脱落

これらを修正するのをヒーリングと呼びます。

でも生データではこうではなかったんですよ?
変換したらこうなるんですよ?
これを修正するって、本当に無駄ですよね?

ヒアリングの結果、大手メーカーを含む多くの企業でこの対応に追われています。

対策は
発注側が違う形式に変更するなどして、データを出し直す
受注側がデータをヒーリングする

お互いに苦労の連続ですね…

トレランス問題

トレランスとは、CADの精度のことです。
これもとても大きな要因です。
しかも、どの企業もほぼここに気を使っていません。



まず簡単なところで、上の画像で説明します。

寸法線では100.と記入されています。
しかし、CADの2点間を測定すると99.99998という数字になる。

もちろん、そこまで精度が不要であるなどあります。
実際、これは弊社でも問題の無い公差内です。

しかし、もやもやします。
生理的に気持ち悪いです。
これで魂を込めて加工できるか?

まず無理なので、結局のところ私は書き直してしまいます。


しかし現実的にはワークサイズなど、業界などによっても基準がバラバラです。

もし、CADをご使用の方は、社内にあるCADのトレランスを見てください。
2次元CADと3次元CADで違うとかありませんか?

そして最も重要なのが、普段取引している企業さんと確認して合わせてください。
後述しますが、ついでに文字のフォント指定も。

ちなみにトレランスを変更すると
細かすぎるとCADが重くなり
大きくしるぎると精度が落ちるイメージです。

バラシの弊害・その1


上の図面。
基準点から
タテ43.3
ヨコ25で穴の寸法位置が記入されています。
よくあるパターンだと思います。

しかし、よく見ると30度?円も書いてある?
何だこれは?
そこで勘を働かせて、調べてみます。



そうなんです、実はこれ、元々タテヨコで寸法を記入してはダメだったのです。
設計者は、角度と径で位置を定義していたのです。

よって、もしタテヨコで寸法を示すなら、タテ43.30127にしなければならなかった。

なぜこのようなことが起こるのか?

それは設計した人と、寸法線を記入した係の人が異なる場合によく発生します。

3Dモデルで設計し、平面図に落とし込むことを

図面化
バラシとも言います。

このバラシ作業、聞くとだいたい新人などの若手、場合によってはパートの方がリモートで行うなどが。

そうなると設計者の意図を理解しないままに寸法を記入していきます。

もちろん、正式な承認図としてハンコを押すために確認します。
しかしここは属人化しているため、どうしても見落としも発生します。

この場合の0.0127の違い。
誤差は公差範囲でしょうか?
致命的でしょうか?


3D図からバラシの弊害・その2


バラシの弊害はまだあります。

上の画像で、緑色の3Dモデルがあります。

これを何も考え無しにバラシをすると左側。
何だかやたら線がたくさんあります。
これらは平面とRのつながる、変化点の稜線が全て投影されてしまっているのです。

パッと見て数字が理解できるでしょうか?

やはり右側の余計な稜線の無いスッキリした方が好まれるはずです。

これ、パソコン3Dで設計するより昔、手書きの時代であれば絶対に無かったことです。
明らかにデジタルになって劣化しています。

もちろん、性能のいいCADであれば、これを非表示で出力する機能はあると思います。
(すいません、まだ実際に見たことないのですが)


しかし現実問題、こういう判別しにくい図面は回ってきます。
紙で回ってきた場合は、コピーして原本は保存し、コピーしたのを修正液で消す。

という、これもまた無駄と思われる作業をする時があるのです。

デジタル化の最強の弊害・文字化け


新しい図面が届いた!
わーい!
どんな形だろう?

そんなワクワクして新しい仕事に取り掛かるテンションを、木っ端微塵に打ち砕く。

文字化けです。

これは発注側と受注側で文字コードが異なると発生します。
いつも普段からやり取りしていれば合わせられますが、新規のお客様だとそうはいきません。
一応そういう対処法はあるのです。

しかし、ある偉い人は考えました。

文字化け?
めんどくせーな。
pdfで出力しちゃえば化けないで問題ないじゃん。
ふふふ、俺頭いいな。

これです。
これこそせっかくデジタル設計したのが紙に戻る瞬間です。
旧世代のドラフター時代と何も変わらない図面に退化するのです。

デジタルデータが不要な理由・対話式と手打ちマクロと汎用機


機械加工でマシンを動かす方法はいくつかあります。

NCを使わずハンドルを手で動かす汎用機。
そして、機械に穴の種類や位置などを打ち込む、対話式や手打ちと呼ばれるもの。

簡単なものは、CAD図を元にするCAMを立ち上げてNCプログラムを組むよりも早いのです。
紙FAXで仕事がこなせるのです。

ほんとに?
そういう現場どれだけあるの?

Twitterはとてもありがたい存在です。
アンケート調査してみました。

230人もの方が投票してくださいました。
誠にありがとうございます。

そして結果はCAMも汎用・対話式もそれほど大きく変わらないという。

つまりCAMどころか、CADも無理に導入する必要がない企業が多数存在しているのです。

これも、紙FAXが無くならない理由の一つだと思います。

発注側あるある問題

すいません
長くなったので、もう箇条書きでいきます。

  • 人手が足らず、特に古い図面をpdfからCAD化する余裕が無い
  • 新製品は問題ないが、昭和な古い補修部品に多い
  • ベテラン職人も退職し、不明点も解明できず、結果として放置
  • そもそも生の3Dデータを出したくない
  • 過去、特に海外での模造品が社会問題になった頃の影響か
  • → 平面図ならOKという謎の様式
  • 履歴、アッセンブリ情報などノウハウ部の流出を危惧
  • → 同じ生データを扱えるCADを持ってるのに、中間ファイルにわざわざ変換
  • 中には2DのCAD図すら出したくない企業も
  • → pdfでないと勝手に改変される企業がある
  • → PMI機能が生かされない最大の要因
  • 発注先とは長年IGESでやってきたのでIGESを変えたくない
  • 実は外部にIGESで出す企業が、大手でさえもいまだに多い
  • グローバル企業では、どの国でも扱える必要がある
  • 結果的に様々な図面形式を運用することに
  • 全ての人に優しくするための涙ぐましい努力
  • 生データ、step、DXF、pdf全てを送るところも
  • 承認図のハンコ問題
  • → デジタルでなく、紙で出力してハンコを押す企業もいまだにあり
  • → 結果、pdfにする必要
  • データ受け渡し問題
  • メール添付かクラウドサーバーか、外部ストレージか
  • → 運用がバラバラ、受け手もクラウド運用セキュリティの知識不足

受注側あるある問題

  • とにかく変換してモデルが壊れる
  • 受注側の対応がほとんど
  • しかも頻度が毎回異なるので、まず無償
  • CADのお値段どうにかしてください
  • 特に会社ごとに仕様が異なるのは無理ゲーです
  • 測定まで一気通貫でデータを運用するシステム構築の手が回らない
  • 測定データ、手書きでないと不正な書き換えが判別つかない?

間に入る商社問題あるある

  • 発注と受注側は問題ない
  • しかし、間に入る商社がCADできず足をひっぱられることも

他にもまだまだ問題あるある

  • やはり2Dの方が軽くて運用しやすい(ベテラン職人)
  • 形状を理解するのも2Dの方が馴染む
  • 3Dでないと形状を読めません(不慣れな若手や外国の方など)
  • 相反する技術レベル
  • もしくは、人間の持つ本能的な感性か
  • DXFとIGESとSTEPの違いを理解できない人の方が多数
  • 振り返ってみると、過去10年前とやってることが進化してない
  • 結果、これらの解決を諦めている人が大多数


以上を踏まえて考えた

長くなりました。

まとめます。

そこで冒頭に紹介したのが、全ての最善の解決策と思ったのがこちらだったのです。



解説しますと
dxfはアメリカ:オートデスクさんの規格
IGESはアメリカ:ANSIの規格、しかも1996年に最終バージョンが設定されてから更新されず古い
PDFはCADデータじゃないし。

STEP推しな理由は
ISO10303の国際規格となっている。
これを元に、現在はAP242としてSTEPの規格を固めているのです。
その活動グループこそが、冒頭で紹介し私が現在所属している

ものづくり標準データ推進協議会
というわけでした。

一応誤解のないようにで
各CADの独自仕様や独自拡張子は、そのままでいいんです。

ただ、標準化できるSTEPも使えるようにしてね、と。
しかもビューワーは無償でなくとも超低価格で。
スマホでも見られるように。
スマホで簡単に図面に印がつけられるように。

そしたら諸問題は解決するはずです。

だってSTLとか点群データ系は、すでにネットのchromeとかのブラウザやExcelでも動かせるんですよ?
誰でもが気軽に3Dデータを活用する時代になったわけす。


長くなった!

これを読んで下さった方、ぜひ現状を嘆いてばかりでなく、理解者を増やしてください。

不可能なわけないです。
私、従業員3人の小さな零細町工場の型屋なだけですよ?
それでもこうして業界に発表しました。

今回、アンケートに答えて下さった企業の方とは、どれも共通の悩みでした。
つまり問題点を理解できているのです。
これは逆の意味で心強い点でもありました。

であれば、解決だってできるはずです。

日本の製造業は、まだポテンシャルがあると私は信じています。

そして、次どうするか。
ここから手始めに、この損失を全国レベルで試算して『損害金額』を出して、見える化して!
と、お願いもしています。
全国各企業のを合算したら、相当なものになると思いませんか?

そしてその金額、解決のために設備投資で使えばいいわけじゃないですか。
そしたら経済産業省も含め各方面に進言しやすくなるのではないかと。

あと他にも、これ以外で解決方法の妙案がもしあれば、ぜひ一緒にお願いします。

皆様のご協力、よろしくお願いいたします。