モノづくりと伝統工芸

【和釘】
中まで朽ちる事無く永遠に留めておく。縁起物に。

  • 鎹=かすがい
  • 替折=かいおれ
  • 巻頭=まきがしら
  • 折釘=おれくぎ(外使用のため漆塗り)
  • 提灯掛=ちょうちんがけ(これも漆塗りで黒い)

    写真の左からです。
    材料は日本刀と同じ、玉鋼。
    玉鋼なので、ボロボロに赤錆になることはありません。

先日、鍛冶職人の友人が製作した伝統の「和釘」を持ってきてくれました。
大人の事情で大きく言えないのですが定期的に建替えを行う某神宮(あぁバレる)で建替え時に実際に使った予備のものです。

その前に、この釘が納められている桐箱です。
たとえば、刀や包丁を製作すると、専用の桐の箱に収めます。
鍛冶も職人の世界ですが、桐の箱も職人の世界です。
その桐の箱も、普段は結婚式の引出物にも使われ、実はこの箱もそうなるはずでした。
しかし、昨今のコロナ騒動で全て大量にキャンセル。発注先からの支払いは無かったそうです。

自分もですが、ほとんどの職人は商売下手アピール下手なので、そこは自分もよく理解できます。 そこで、少しでも救おうと鍛冶職人の友人が発起人となり和釘を収めて有償で支援することになりました。 しかし、この和釘も大人の事情で大々的に商売にはできない。 細々と身内だけで支援している状態です。

たとえば、刀鍛冶、包丁鍛冶、研ぎ師、さらにはつば、つか、さや、箱、他にも様々な伝統工芸師が別々にあり、それで刀の世界も成り立っています。
これら全ての職人さんをクラウドファンディングで救うなんてとうてい無理です。
そもそも過酷な世界で、ほとんどが現代の機械で生産された製品にシェアを奪われ、商売にならない。
行列するほど人気があるのは博物館にある昔の刀だけ。
現代の鍛冶職人はほぼ包丁を作るだけ。

それだって、鉄板をプレスで打ち抜いたのを素材にして、ちょっと叩いただけで伝統工芸品として売り出すメーカーも現れる始末。
本当に1本1本手作りなのは、鉄を赤く熱し、叩いて折り返し、また熱して、叩いて折り返し。
大変な労力がかかっているものなのです。
(なのでこの方法で作ると包丁1本〇十万円こえていきます)

技術はどんどん失われていく。本当の鍛冶職人は絶滅する。
確かに、刀の目的は人を切り殺す道具ですから。
包丁だって、切れればいい、だけだったらこんな高価なものは不要です。


モノづくりの地盤沈下が叫ばれますが、伝統工芸はその最たるものです。
某神宮の建て替えは今後行われても、建材の伝統まで守れるかはわかりません。
現実は厳しいです。

和釘も、次回分は作るけどその次は無いだろね、と。
そのうちに、この世界は人知れずひっそりと失われていくと思います。
同じ鉄を扱う職人として、非常に寂しい思いをしました。

しかしですね!この友人の鍛冶職人が作った伝統の和釘!これすごいんですよ。
自分も一度、工房にお邪魔させて頂いて、泊まり込みで小さな切出し小刀を一振り作らせてもらったんですが、その体験の上で気になったのはこの細さですね。

鉄は炉に入れて石炭やコークス、炭で火を燃やし、ふいご(今はさすがに送風機)でガンガンに温度を上げます。
(アニメ・もののけ姫の世界です)
大きい厚みや長さのあるものは均一に温度を上げるのは難しいですが、細長いものも逆に溶けたり燃えたりで難しいわけです。学校で実験するようにスチールウールなんて簡単に燃えるわけですから。

この釘の細さで、的確に伸ばしていく、曲げていく。常温じゃないですからね。真っ赤に火傷する温度ですからね。ハンマーで叩くと火花が飛んできますからね。それを、10本100本でなく、1種類につき1000本とか、もっと大きいものも含め70種ほど製作したそうです。

手作りで。1本1本ハンマーがっちんがっちん打ち続け。機械加工で機械にまかせるのが当たり前な自分にとっては、気が遠くなります。
(スプリングハンマーって機械もありますが、加減できないので細いのはさすがに無理)

当然、クーラーの効いた環境なんかじゃありません。
特に焼入れ時は、温度を見ためで見極めるため、部屋を閉め切り、電気も消し、真っ暗な中で行われます。扇風機の風だって邪魔なので使いません。
自分がお邪魔した時は真夏のお盆休みの時だったので、それはそれは地獄の暑さ・・・

しかし、これがモノづくりの原点です。飛鳥・奈良・平安時代など古い建物が、どのように建てられたのか、その建築材料はどうやって調達したのか。
刀などの好きな方々も、せっかくなのでぜひ幅広い目線で昔に想いを馳せてください。自分も今度、古い神社仏閣に訪れた際には(特に定期的に建て替える某神宮)違った目線で見てみたいと思います。

現代の職人も負けてられませんよ!
今日も元気に金型作ってます!